大阪高等裁判所 昭和57年(ラ)247号 決定
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
二当裁判所の判断
(一) 一件記録によると、抗告人は、債務者に対して有する金八〇万円の貸金債権のうち金三〇万〇〇三八円については、債務者が第三債務者に対して有する普通預金債権を差押え、且つ転付命令を得たが、残金四九万九九六二円について本件差押命令を申立て、原審において却下されたので本件執行抗告をなしていることが認められる。
(二) 一件記録によると本件は国民年金受給権(これは国民年金法二四条で差押が禁止されており、しかも任意譲渡も禁止されているので、任意譲渡の許される場合と異つて、差押によつて権利者の処分権を取上ることは許されないものである。)自体を差押えるのではなく、国民年金手帳引渡請求権の差押を求めるというのであり、しかもそれは金銭執行の一つとして有体動産引渡請求権を差押えるというのであるから、動産としての国民年金手帳の引渡を受けてこれを換価し、その売得金を以て請求債権の満足を得ることを前提とするものであるというべく金銭的価値のないものに対する執行は無益執行として許されないものと解さなければならない。これを本件についてみるに、国民年金手帳自体が国民年金受給権を化体しているものでないことは勿論、国民年金手帳そのものも原審認定のとおり無価値に等しいものであるし、一件記録によると、抗告人が国民年金手帳の差押を求めるのも、抗告人が原審に提出した上申書によればこれを差押えることによつて債務者に心理的圧迫を加え、事実上弁済が得られることを期待してなしたというのであるから、彼是綜合考察すれば本件執行申立は有体動産としての国民年金手帳の引渡請求権それ自体の差押を目的としてなされたというよりは差押を禁止された国民年金受給権からの債権回収を目的として右禁止規定を潜脱し実質的に国民年金受給権の差押を図ろうとしたものというも過言ではなく、法が右受給権に対する執行を禁止した趣旨に鑑みると本件申立は執行すべからざる権利に対する執行申立として許されないものと言わなければならない。右認定説示に反する抗告人の所論はいずれも採用できない。
(三) したがつて、理由は異るが当裁判所と結論を同じくする原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。
(今富滋 西池季彦 亀岡幹雄)